3月18日(土)非常階段

ラボの手伝いで研究発表会に顔を出す。
私の仕事は話に合わせてのOHPシートの操作。
拡大投射ではなく、スキャナーでスクリーンに映し出すが、
切り替えのタイミングでは、どうしても手が映ったり、
ズームや縦横の切り替えにもたつく。

世はパワーポイント全盛時代。
論者の年齢から考えてOHP使いを無理からぬとは思えど、
プレゼンのハンデは発表全体の印象を左右するなあ、と、
唇をかみしめる。皆がOHPだった時代は、
まったくどうってことなかったでしょうに。
がんばって! あとちょっとで結語ですよ!

夜、近々直接話をしなくてはと思っていた学生と会う。
少し太って、留年が決まったという。
親以外からけっこうな直言を聞くハメになるなんて、
因果なヤツだと思いながら、しばし忌憚のない打ち合わせ。
がんばって! これからの未来ですよ!

帰宅後、昼から何も食べていないことに気づく。
気づいたとたんに猛烈な空腹感に襲われ、
夜中に菓子をつまむ。まだリラックスしきれず、
さらに何種類かの花の精油をブレンドし、
ポットで香らせてヨガタイム。
全身の、特に下半身の筋が縮こまっているのを、
ゆっくり伸ばしていく。

吐く息を長く保つ。フーッ。
がんばって、なんて、余計なことだ。
静かなる観察者が、私の中で私につぶやく。
いつもそうして人にプレッシャーを与え、
自分にもプレッシャーを与えている。

強く息を吸い、ふたたび細く長く吐く。フーッ。
プレッシャーではなく、エネルギーを。
北風ではなく、太陽を。
心配ではなく、不動の支えを。
そう学んだのではなかったか。

ひとつ、またひとつ、イタラヌを吐き出すにつれ、
次第に心くしゃくしゃに潰れて、背骨腰骨メキメキいう。
またちゃんと人の形をしたものに戻れるだろうか。

バッハが鳴っている。
規則正しい心臓の拍動のような、透き通ったピアノの響きは、
Stadtfeldによるゴルドベルグ変奏曲。
暗がりに溶解するこの者の命綱だ。
非常階段のように、明日へ抜ける光の道を案内している。