3月2日(木)一服の幸せ

夜にかかった打ち合わせが、
思ったよりも早めに終わる。
けれども、なんとなく力尽きた感じで、
ふにゃふにゃしながら帰途につく。

おなかがすいているわけではない。
甘いものが欲しいわけでもない。
こんなときに疲れを取るには、
どうしたらいいか少し考え、
久しぶりに抹茶を飲むことにする。

以前、あるお茶商さんに教えていただいた抹茶の点て方は、
全くの実用で、いわゆる茶道の形式にはかなっていないが、
キッチンで確実に準備するには優れている。

30mlほどの白湯が抹茶椀の中で薄緑色のエスプレッソに変わる。
作っている段階で、まず、その色と香りにほっとし、
今度は自分が客となってすべてをいただく。

霧が晴れるように、サーッと疲れがひいていく。
こわばっていた筋肉がほぐれ、深い呼吸が戻ってくる。
古来から賞賛の声やむことのないカロリーゼロの気付け薬は、
しみじみ、美味しいのだった。

これはもはや緑の魔法だ、と思う。
ただこれも、お茶の作用を受け止める体力があればこそで、
体が弱っているときや、だんだん年をとっていったときには、
むしろ焙じ茶の、なんでもない優しさが身にしみるようになるという。

茶福一生。
カメリア・シネンシス(Camellia sinensis(L.)O.Kuntze)という名の、
椿科の常緑の潅木がもたらしてくれる恩恵はまことに限りなく。
縁側がなくても、心の縁側で渋茶をすすり、ひなたぼっこする感じ。
そっと命に寄り添ってくれる、奇跡のフィトケミカルのひとつだ。